新連載【フィッシング広辞宴】 第3項【生きエサ】

          エド山口

回のお題は【いきエサ(生き餌)】です。「いきえ」とも言います。

「生きエサ」とは、そのまんま解釈すれば「生きているエサ」のことですが、釣りの世界では、【生きているエサを使っさらに大きな魚を釣ること】と解釈されるのが一般的です。

生きエサと一概に言っても、キスやカレイ釣りなどで用いる「イソメ」や「ゴカイ」、関西で使われるマダイ用「ユムシ」、クロダイのエサとしての 「シャコ類」「貝類」、またイシダイ用の「カニ類」「ウニ類」「サザエ」「トコブシ」、そしてクロダイのカカリ釣りやメバル釣りに使用される「小エビ類」など‥‥‥すべて「生きているエサ」に遠いありません。

しかし、釣り人の会話の中で、「生きエサで行こう!!」と言ったら、前述したエサ類を用いて魚を釣ることではなく、【生きている『魚』をハリ掛けして泳がせ、さらに大物を狙う】と理解されるのが普通です。

たとえば、アオリイカ。エギングが大ブームですが、「小アジ」の泳がせで狙うファンも数多く存在しています。船ならば、メゴチやピンギス、トラギスなど生きエサにしたマゴチ狙い、生きたイワシを用いるヒラメ釣りやメバル釣り、はたまた小型魚などを生きエサに使うヒラマサ、ワラサ、カンパチ釣りなどなど……。

過去、数かずの大物を磯から生きエサで仕留めてきました。小笠原15回、奄美大島18回、ニュージーランド、オーストラリアなどで討ち取った青物類のほとんどは生きエサ使用です。ヒラマサ20キロ以上が12本、ハタ類の20キロ以上が9本、イソマグロ22キロ以上が4本、ヒラアジ16キロ以上が14本、アオチビキ12キロ以上が6本など……すべて現地で釣った魚を生きエサにして獲得した大物たちです。

ムロアジの時もあればボラの時もあり、イズスミを使用したこともあればダツの時も、ベラやトビウオを使用した時もありました。ニュージー&オージーでは「カウアイ」=別名オーストラリアンサーモンをエサにヒラマサ爆釣を経験しています。

「生きエサには大物が来る!!」 と信じてやまなかった時代には、その生きエサの確保もひと苦労で、たとえば奄美大島の「笠利トンバラ」という超1級磯では、大型ヒラアジが回遊しだすとムロアジがパタッといなくなってしまいます。そのため、本命が来る前にムロを釣って、なおかつそれを生かしておかなくてはなりません。

メンバー全員で考えた挙げ句、子供用の丸いビニール製プールがいいであろうとの結論に達し、さっそく購入。ムロアジは、つねに一定方向に水が流れていないと死んでしまうため、空気を送る「ブクブク」も大型3基持参。渡礁後ただちにビニールプールを膨らませ、海水で満タンにし、プクプク3基を並設……これでプール内の海水はある程度の速度で同方向に回転し始めます。

全員でムロアジ釣りに専念をし、14〜15尾を確保。弱ったり死にそうになったムロはコマセとし、さらに新しい生きムロを補充する。笠利トンバラは、6時間40分ごとに急潮が向きを変えて流れ、その流れの中では潮が速くて釣りになりません。ところが、潮変わりの20分だけピタッと流れがとまるのです。この瞬間に、目の前の海は大型ヒラアジの乱舞でピッシリ埋まる!!という物凄い光景が見られます。
 
ここから戦闘開始となりますが、なにせたった20分しかないため、1人ヒラアジ1尾が限度。しかし、その1尾が軽く20キロを超すってんですから、そりやもう大格闘技大会!!

ムロアジの背ビレ前部にハリを掛け泳がし始めると、ビピッたムロがヒラアジに食われまいと必死に逃げる。その様子がリールのラチェット音で「シジーシジージジー」と釣り人に伝わってきます。

すると目の前の海面をヒラアジの背ビレがススーッと生きエサに向かって走って行くのが見え、次の瞬間、ガバッバッシャ〜ンという音とともに、リールから18号ナイロン糸がシュルシュルシュルーと走り出す。リーダーは30号。
「ヨシ!!乗った!!」

しばらく走らせた後、強烈に追い合わせをくれて完全にハリを掛け、その後は魚が止まるまで走らせ、止まったらシャカリキに巻く。また走らせ、また巻く……の繰り返しで仕留めたときの感動といったら、「やはり生きエサ釣りはスゴい!!」のひと言。最近の磯釣り界は、ウキフカセ釣り一色の感がありますが、やはり大物釣りの迫力には勝てません。

ある時の小笠原釣行。後輩が、「エドさん、コイがいいエサらしいですよ」「コイ? コイつて、あの淡水魚の鯉か?」「ええ……食いが抜群にいいって聞きました」「ほんとかオイ?」

出航当日、後輩の菅原が持ってきたのは大きなビニール袋。中を覗くと、水が入っていて20センチくらいのコイが20尾ほどたしかに泳いでいる。「市谷駅前の釣り堀で買ってきたんですけど、中に圧縮酸素入れてますから、30時間以上は持つだろうとのことです」

チャーターの1万トン級フェリーゆえ、小笠原二見港までの所要時間は約26時間。 二見港から渡船に乗り込み、僕たちの班3名は弟島「北の鼻」へ。「な〜るほど、まだ生きてる」

さっそく、コイを取り出し背掛けにしてドボン。「まあ、スズキ釣りに金魚使うってこともあるくらいだから……こりや楽しみだ」ところが、そのコイの様子がへン。淡水魚を海水に入れてもすぐ死ぬわけではないので、コイが泳いでいるのはいいとして、そのコイの周囲に半径1メートルくらいの丸い輪ができている。その丸い輪の外側には名物イズスミの群れがピッシリ。にもかかわらず、コイの周りの空間は一体ナンだ!!

「菅原、見てみろ、海の魚がヒイてるぞ」 「ほんとだ……淡水魚の臭いですかねえ」
「見たことのないヤツが来たって感じで取り巻いてるんだよ」
「ふ〜む」

結局、コイの生きエサはダメという結論が出たのであります。ああ、馬鹿馬鹿しい!?